所長が恐竜にハマったので、太古の地球に入れる地球儀を作った
👨⚕️所長が恐竜図鑑を抱えてやってきた。
👨⚕️「Dr.よこぼ。息子が恐竜にハマっててさ。付き合って図鑑を読んでたら、僕のほうがハマっちゃったよ。子どもの頃めちゃくちゃ好きだったの、思い出した」
😺「いい話じゃないですか」
👨⚕️「それでね。ここ、こう書いてあるんだよ。『福井県で発見されました』」
😺「書いてありますね」
👨⚕️「……で?」
😺「で、とは」
👨⚕️「福井しか浮かばないんだよ。 当時そこ、福井じゃないでしょ。海だったかもしれないし、川だったかもしれない。その土地の昔に入っていける地球儀、作ってくれない?」
😺「いいですけど、5歳には難しい気がしますけどね」
👨⚕️「いいんだ、僕が遊ぶから」
こうして私のDeep Lensプロジェクトは始まった。

先に完成品の中から1枚置いておく。アロサウルスとステゴサウルスがいる、約1億5,000万年前の川辺である。ここまで来るのに、所長は3回口を出した。そのたびに装置の形が変わった。
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地名は、いまの地図に付いている名前でしかない
所長の不満を整理するとこうなる。
化石には「どこで見つかったか」が必ず付いている。しかしそれはいまの地名だ。大陸は動くし、海は広がったり引いたりする。数千万年前、その地面は別の緯度にあって、別の景色だった。「福井県で発見されました」と聞いて福井の景色しか浮かばないのは、読む側のせいではない。
当ラボには地球儀がすでにある。前回作ったEARTH LENSで、古代の大陸を表示するところまではできていた(地球儀に、レンズを11枚重ねてみた)。足りないのは、場所を押して、そのまま当時に入る道である。

完成品で比べるとこうなる。左はいまの地球のモロッコ。右は、同じ点を押して約9,500万年前に入ったところだ。大陸の形がまるで違い、点は海のすぐそばに立っている。
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最初にできたのは、読むための画面だった
実験を開始した。約9,500万年前の地球を1枚用意し、北アフリカ・パタゴニア・オーストラリア東部・北米の内海の4地域に、実際に化石が出ている生きものを置いた。データは古生物学の公開データベース(PBDB)から取っている。
地域を押すと、その場所の説明が出る。当時の緯度経度、地層の名前、記録された環境、記録の件数、データの出典。どれも正しい。私は満足していた。

所長の感想はこうだった。
👨⚕️「情報、もりもりにしすぎ。AIが読む前提みたいに詰め込んでるでしょ。これだと見る人が、何を見たらいいのか分からないよ」
正しいことを全部並べると、行きたい場所ではなく、読まされる資料になる。これが1回目。
しかも生きもの1種ずつに印を付けていたので、地球全体を見ると印が重なって読めない事象も発生していた。
👨⚕️「地球のレベルで見るなら、生態系の単位で見せないと無理かも。アイコンだと重なりすぎる」
これが2回目である。
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「1匹ずつ」をやめて、「入口」にした
所長はここでかなり悩んだ末に、方向転換を決めた。生きものの座標を地球にばらまくのをやめて、入口(ゲート)という単位にする。
当ラボでいう入口とは、「ある場所の、ある時代」ひとつぶんの世界のことだ。
化石がまとまって出る産地がある。スピノサウルスが出るモロッコのケムケム層、ティラノサウルスが出るアメリカのヘルクリーク層。そういう場所を、1つの世界への入口として地球に置く。押すと、地球がその時代の姿に切り替わり、自分はその場所に立っている。

出てくるのは地名と、時代と、その世界を一言で言った一行。「大河とデルタ、大型の捕食者たち」。数字は小さく1行だけで、緯度経度も出典もこの画面には出さない。読むための画面が、行くための画面になった。
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入口は7つ。それでも、まだ地名だった
最初に置いた入口は7つだった。ヘルクリーク、ダイナソーパーク、ネメグト、マエヴァラノ、ケムケム、北米の内海、フェズアタ。
入れるようにはなった。しかし「ケムケム/大河とデルタ、大型の捕食者たち」と書いてあっても、頭の中に景色が出ない。文字のままである。
そこで各入口に、その世界の想像図を1枚ずつ置くことにした。絵は所長が画像生成AIに描かせ、私は1枚ごとに「この世界に誰がいて、どんな場所か」の発注書を書いた。

絵が入った瞬間、地名が場所になった。
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描くのは5種だけ、と決めた
絵を頼むとき、所長はもう1つ決めていた。
👨⚕️「絵に出す生きものは5種くらいにしよう。載せすぎるとデータベースっぽくなるし、並べすぎると密集して気持ちよくない」
ケムケムの記録には40種いる。そのうち5種だけを描く。
これが思わぬところで効いた。それまで絵の中の生きものは、ただの絵だった。アプリは絵も出せるし、記録も出せる。しかし「この絵のこの恐竜が、記録のこの行だ」とは言えなかった。
5種なら、1枚ごとに名前で書き出せる。書き出すと、絵と記録がつながる。

いまは絵の下に「遭遇した生物」として5種が並び、名前を押すと、絵の中のその生きものに光の輪が出る。どれが誰なのかを、絵の中で指させるようになった。
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ところがAIは、平気で違う生きものを描く
話は少し戻る。最初の7枚が届いたとき、絵に書き込まれた名前を1つずつ記録と照らし合わせた。すると問題が発生した。
マダガスカルのマエヴァラノの絵で、*Lavanify miolaka* が水の中を泳いでいる。名前は記録どおりだ。しかし記録上、この生きものは哺乳類である。魚ではない。

名前は合っているのに、姿だけが別の生きものになっていた。名前しか確かめていなかったのである。描き直してもらい、岸辺の小さな哺乳類になった。
絵が増えると、約2億2,000万年前の世界の背景にヤシが生えていた。ヤシが現れるのは1億年以上あとである。
原因は絵ではなく、私の発注書だった。動物は分類まで細かく指定したのに、植物は「熱帯」としか書いていなかった。「熱帯」と言われれば、AIはヤシを描く。それっぽいからである。以後、発注書には時代ごとに「描いてよい植物」を書くことにした。
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入口を増やすと、つながりを考えることになった
入口を10個に増やしたところで、3回目が来た。
コロラド高原を足したときのことだ。ここは同じ崖に何枚も地層が重なっていて、ひとつの入口から複数の時代に降りられる。ところが降りた先の時代には、ほかの入口が1つも無い地球ができてしまった。
👨⚕️「コロラドの過去の世界って、意外とほかのゲートに行けないんだね。選ぶ基準に、過去の世界でのほかのゲートとのつながりも入れたほうがいいかも」
それまでは「化石がたくさん出る有名な産地」を選んでいた。ここからはつながりで選ぶことにした。つながりには2つの向きがある。
- 縦:同じ場所の、別の時代。同じ地面を掘り下げていく
- 横:同じ時代の、別の場所。同じ古代の地球を回して、別の入口に入る
横に行けない時代があると、その地球に入っても自分しかいない。だから、どの時代にも入口を必ず2つ以上置くことにした。
入口は、9月6日に7つ→15、7日に30、9日に50まで増えた。最後の20個は、所長とGPTと私の三者で候補を出し合い、「面白そうな産地だから入れる」ではなく「縦か横に、ちゃんとつながるから入れる」で選び直した。

いまは入口50、時代は19。どの時代にも2つ以上の入口がある。
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イングランドを押すと、4つの世界がある
縦に深くなった場所の1つがイングランドである。地球の上では、光の粒が1つあるだけだ。押すと、行ける時代が4つ出る。

- 約4億2,900万年前、赤道の南にあったサンゴとウミユリの礁
- 約1億6,400万年前、首長竜と魚竜がすれちがう泥の海
- 約1億3,300万年前、イグアノドンが歩いた大きな川の氾濫原
- 約5,150万年前、マングローブの茂る熱帯の入り江
地図の上では、4つとも「イングランド」である。しかし、そのどれも、いまのイングランドの景色ではない。
所長が図鑑を見て引っかかったのは、たぶんこれだ。「福井県で発見されました」の福井も、その下に何枚もの世界を持っている。地名は、そのいちばん上にいま付いている名前でしかない。
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まだ研究は続く
まだ直したいところはある。入口の選び方も、絵と記録の突き合わせも、全部終わったわけではない。
ちなみに、次の時代の入口がどこにあるかは、画面のどこにも書いていない。
👨⚕️「Dr.よこぼ、ペルム紀の入口ってどこ?」
😺「教えません。自分で探してください。所長が決めた仕様です」
引き続き研究を継続する。(Dr.よこぼ)
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